マダム・リリーがヨウコに伝えたいことは?
リリー「ところで、息子さんもお嫁さんも、例えばクリエイティブな仕事や趣味を持っていたり、自分の世界を持っていたりするんじゃない?」
ヨウコ「ええ、そうみたいです。息子は、大手のゲーム会社に入ってゲームを作っているらしくて。元々好きだったんです。嫁は、ITっていうんですか? そういう会社で、やっぱりゲームとか、アプリ? とかを開発しているプロデューサーなんですって。息子は、『僕らにとっては、作ったゲームが子どもみたいなものだ』なんていうんですよ。」
リリー「なるほどね。お互いにそういう仕事にのめりこんで、人生を賭けてやっているなら、新DINKSになったことも納得がいくわ。実際に、子育てしながら、以前と同じような質や量で働くのは、難しい仕事かもしれない。
でもそれだけじゃなくて、息子さんが言ったとおり、彼らにとっては仕事が、あなたにとっての子どもと同じくらい大切なものなのね。それが好きなようにできていれば、十分充実した人生なのよ。結婚や育児による束縛や我慢は極力避けながらも、1人ではなく人生のパートナーとの絆も築いていく。それが2人の形なのね。」
ヨウコ「…なんとなくわかってきました。もう、あきらめるしかないんですよね。頭ではわかっても、ずっと孫を抱くことを楽しみにしてきたから、寂しいんです…。」
リリー「ねえ、ずっと気になってたんだけど、そのカーディガンの刺繍すごく素敵よね。それ、どうしたの?」
ヨウコ「あ、これは私が自分で刺繍したもので。お裁縫が好きで、趣味でずっと色々作ってるんです。」
リリー「やっぱり! すごいじゃない。あなた、センスあるわよ。ちょっとレトロな雰囲気が逆に新しいし可愛いわ。それ、絶対売れるわよ!」
ヨウコ「ええ!? 自分の趣味の刺繍が商品になるなんて、考えたこともなかったです。でも、どうやって売ったらいいかなんてわからないわ。」
リリー「そうよね。ふふ、私も経験あるわ! でも大丈夫よ。今は簡単に販売できるサービスも色々あるから。
そんなサービスを使えば、誰でも簡単に手作りの作品を販売することができるの。
自分の作品を世に出して、利益にもなって、たくさんの人から評価される喜びを知ったら、案外、孫のこともどうでもよくなっちゃうかもしれないわ。」
ヨウコ「なんだか、自分にもまだ新しい世界が広がってる気がしてきました。今は、孫のことよりも早く作品を売ってみたくなってます! 自分にこんな気持ちがあったなんて。どうしてわかったんですか!?」
リリー「うふふ、私にはなんでもわかるのよ」
ヨウコ「ありがとうございます! マダム・リリー!」
そう言って、サロンをあとにしたヨウコ。
まっすぐ前を向いたヨウコの顔とカーディガンの刺繍は、日の光を受けてキラキラと輝いています。
文:つかまい子