株式会社日本総合研究所チェアマン・エメリタスの高橋進氏とiYell株式会社代表取締役社長兼CEOの窪田光洋が対談。2019年10月からの消費税10%引き上げに伴い、人々の普段のライフスタイルがどう変わっていくのか。今のうちにやっておくべきこととは。そして住宅を購入するべきタイミングについて、両者が意見を交わした。
今のうちにやっておくべきこと
駆け込み効果で増税前はいろんなものが値上がりして、増税後は逆にいろんなものの値段が下がりました。家電は増税後の方が安かったりしたんです。
政府は消費税が上がった後も、住宅の購入や住宅ローンを借りるのが不利にならないように、いろいろと制度の設計をしていますし。
つまり買いだめした人は損したんです。みんなで買いだめをしない動きをとれば、その反動による不景気は防げるのではないでしょうか。
日本と世界で違う消費税の考え方
以前は消費税引き上げの時点で、企業は消費税分を上げて表示をしていましたが、今回は値段がいつ上げ下げしてもいい、つまり価格の自由設定ができるようになったんです。したがって買う時期で値段の変動がないものが多くなると思います。
こうやって消費税が上がるからといって買いだめしたり、大騒ぎするのは日本だけなんですよ。
ドイツは価格設定が自由化されていますから、駆け込みはないですし、イギリスは消費税が二桁ですけど、そもそも内税なので変動が分からないんですね。消費税と価格はリンクしていないので駆け込むこともないんです。
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外国ではそもそも税金に対する概念があまりなかったから、消費者側も消費税を意識していなかったんですね。
それと日本では今後も消費税が上がっていくでしょうから、いつ買えば得かという考え方自体無くしていいような気がしますけどね。
政府が考える景気が落ち込まないための大きな絆創膏
反動減がなくなれば元に戻るはずですけど、その時は戻りませんでした。3年以上に渡って消費が弱くなったままだったんですよ。
そういう意味では、国民は消費税が上がるということにまだ慣れていなくて、どうしても過剰に反応して、後々の消費を控えてしまうという傾向にあります。そこは政府が気にせざるを得ないところです。
景気対策を込みで見ると2019〜20年は実質負担が帳消しになるぐらいに政府は気を使っているんです。それは、前回のように景気が落ち込むのが怖いからです。でもこれはあまりいいことではないんですね。
景気を回復させるために、景気対策を何度もやってたんでは、消費税を上げて税収が増えても1、2年はその分を食ってしまうので、意味がありません。
増税で一番影響を受けるのは若年層?
ただ消費税は全国民が対象ですが、今回恩恵を受けるのは子育て層など限られた人なので、税を取られる人と恩恵を受ける人が一緒じゃないんです。例えば高齢層であったり、家庭を持っていない若年層には受ける恩恵がないとなると、彼らの消費は少なくなってしまう危険性はあります。
言い換えるとその分の社会保障負担が増えていきます。それを今政府は、消費税で賄おうとしているわけです。
そうすると相当の率で消費税を上げないと賄えません。若い人たちの所得の中から消費税が増えていきます。そうなるとどうしても消費に影響は出てますよね。
その取られた分が全部高齢者の手元に集中する、というのは耐えられないでしょう。こういった理由から子育て層にも少し配分しようとなったんです。それで少し政策がよくなったとは思います。
そうしないと若い人たちは納税しても自分の年金はどうなるか分からない、分からないから将来の不安は消えない。その将来の不安を消すことが政府の務めだと思います。
増税に向け、住宅を購入するタイミングはいつなのか?
もともと購入する予定がある人は10月1日に上がる前に精算を済ませましょう。これに対して特例がありまして、半年前までに契約していれば、引き渡しが10月1日を過ぎていても認められます。つまり、手当の手続きは早めにしておけば、支払いや借り入れで焦ることはありません。
前回の家電の件のように増税後に値段が下がる可能性もあるので、そういう意味では増税後に家を買うという選択肢も十分あると思います。自分のケースに応じて効率よくシミュレーションした方がよいですね。
やはり、買うことを想定して一回シミュレーションした方が確実に満足度が高いでしょう。住宅は住み替えをしたとしても一生で2度、3度の大きな買い物ですから、ちゃんと勉強して買った方がいいと思います。
社会の動きに伴って新たな家の買い方が求められている
ただ最近は、必ずしも本当の都心でなくてもいい、23区の周辺部の方がむしろ割安感があっていいという考えの人が増えている気がします。
それは子供が少なくなっていたり、DINKS(Double Income No Kids2収入、子供なしの頭文字などを並べたもの)という人もいると思いますが、今までの面積のマンションだと、高すぎて買えないという事実があるんだと思います。
またどこかのアンケートで子供を作らない理由は、将来の不安が大きいという理由が大半だというのを見たことがあります。
今回の増税後、次に増税するタイミングと増税額の予測
第一生命経済研究所の記事によると、最終的には17%~19%になるなどの話が出ていますよね。
だから今後も消費税増税をやるという議論があると思います。ただ消費税だけで賄おうとすれば、絶対20%弱ぐらいまでは上げるでしょうね。
例えば15%なら、15%以上消費税を上げないようにするには社会保障の改革が必要になってきます。医療とか介護の改革をどこまでできるかが大事だと思います。
増税するということは、要するに減っていく生産年齢人口の層に負担がかかっていくということでもあります。よく「何人で高齢者を支えていく」っていう話がありますけど、将来的には1人が1人を支えなきゃいけなくなってしまうぐらい重たくなってしまいます。
また出生率を人口増加に繋げようとしたら50年はかかります。つまり、出生率を上げたとしても効果が出てくる2060年ぐらいまでは人口は減り続けます。ただし、団塊世代が後期高齢者になるのが2022年からなので、そこから20年くらいすればほとんどの方は亡くなります。
そうすると医療・介護の負担は減りますが、働く人も減ってしまいます。ここから25年位が非常にしんどいところです。ただ、もっと先まで考えれば、今から一生懸命出生率を増やすこと、子供を産みやすい環境を作ることがものすごく大事になんですけど、効果が出るのは50年60年と先なんですね。
健康維持や病気の予防で財政は健全化する
例えば、糖尿病になっても人工透析になるかどうかによって医療負担が全然違います。糖尿病になっている人、なりかけている人は多くいらっしゃいます。しかし、重症化して人工透析になった途端に年間最低でも500万円くらい負担が増えるんですよ。
予防としては30、40代の時からできるだけ健康維持に努め、病気になっても重くならないようにすることだと思います。
例えば治らない病気は終末期医療などで無駄に延命しないことですね。誰もがガンなどで最後は医療費がかかりますけど、そこをできるだけ短くします。人生寿命と健康寿命は10年差があるって言いますけど、そこをできるだけ短くするっていうのが大きいと思いますね。
年を取ったら1つや2つの病気を抱えることは仕方ありません。だけど、そこをちゃんとケアしておけば、そんなに重症化しないでいられます。
その逆で、悪くなれば入院する。ある程度回復すると家に戻ってくる。でも家に戻ってきたことろで介護状態。しばらくすると、またどこかが病気になって入院する。これを繰り返したら、とてもじゃないですが、クオリティオブライフができないです。
でも、実際に重症化しちゃうと、そういう状況になってしまうケースが多いですね。
お金があれば、こんなに素晴らしいことないですよ。でもお金がなかったら、大変な人生になります。したがって65歳ではなく、その体力と気力があるうちは何歳でも働けるような選択肢を用意しておくことです。
私は今66歳なのでそういうことを考えるようになっています。自分の同級生はだんだん会社を辞めて遊んでいますよ。ただ、2〜3年も経つと「やはり社会に貢献したい、できれば働きたい」とか言い出すんですよ。
60歳、70歳になっても社会とのきずなをずっと持ち続けられるような生き方が必要だと思います。
株式会社日本総合研究所 チェアマン・エメタリス
高橋 進(たかはし すすむ)
プロフィール
株式会社日本総合研究所チェアマン・エメリタス
高橋 進(たかはし すすむ)
1976年、一橋大学経済学部卒業。株式会社住友銀行を経て、株式会社日本総合研究所へ。2007年理事長就任。2018年から現職。2013年から18年まで内閣府経済財政諮問会議議員。
「ワールドビジネスサテライト」(TX)など、メディアでもみられる、分かりやすい経済についての解説は、講演でも顕在です。日本や世界経済の現状を踏まえ、その展望や今後の企業経営の方向性をご提案します。
iYell株式会社 代表取締役社長兼CEO
窪田 光洋(くぼた みつひろ)
プロフィール
1984年、神奈川県生まれ。青山学院大学経営学部卒業。2007年に新卒でSBIグループのモーゲージバンク(証券化を資金調達手段とする住宅ローン専門会社)に入社。2012年SBI大学院大学にて経営学修士(MBA)を取得。その後最年少で執行役員に就任、住宅ローン商品の組成から販売、審査、債権管理等住宅ローンのすべてのフェーズにおけるトップを歴任。2016年に独立し、iYell株式会社を設立。
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