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【マンガ】保育園落ちた自分死ね!!! 我が家を殺したのは誰だ?【松本えつをの子育てあるあるvol.47】

「保育園落ちた日本死ね!!!」というフレーズの存在価値

とあるブログの記事を発端に「保育園落ちた日本死ね!!!」 というフレーズが全国で話題になったのは 2016年のことである。

この「保育園落ちた日本死ね!!!」というフレーズを聞いて人は何を思うのだろうか。

……「気持ちはわかるけど、言葉づかいが汚いな」だろうか。
……「保育園落ちたぐらいで何をそんなにわめいているのだ」だろうか。
……それとも、ブログのコメント欄にあるように「夫や男や国が悪くてワタシは悪くない! って、依存するのが当然だと思ってる醜い奴は親になる資格なし」といったことを思うのだろうか。

きのこは、こう思う。
「素晴らしい! よくぞ言ってくれた!」と。

なぜなら、そのフレーズが賛否両論あれど多くの人の感情を揺り動かしたということは間違いないからだ。

良くも悪くも人の心を動かすような言葉を発することは、簡単なことではない。

特に、この国のこの時代における待機児童問題に関しては、これまで、どれだけ多くの母親たちがそう思い、それでも言葉にできずにきたか。

それを思うと、批判があるかもしれないことを顧みず、誰もができなかったことをしたという点においてだけでも、高く評価するべきだと思う。

世の中は、実際に体験した人が声をあげない限り、変わっていかない。
変わっていくためには、変わっていく必要があるという「現実」を、多くの人が知ることだ。
体験者が声をあげることで初めて、その現実が伝わり、後世が変わっていく。

「死ね!!!」という言い方は、たしかに品を欠くかもしれないが、このとき、同様の状況におかれた人々の心の中を表現するのにこれ以上リアルで最適な言葉があっただろうか。いや、ないだろう。

言葉というものは、時に人を救うし、 逆に傷つけることもある。
そして 同じひとつの言葉が同時に「救うこと」と「傷つけること」の両方を行うこともある。

このフレーズに関して言えば、結果的には「傷つけること」よりも「救うこと」に繋がっていると思う。

認可保育園、落ちたら……どうするの?

もし、育休明けの女性が、我が子を認可保育園に入れることができなかったら、多くの場合……

《1》認可外(無認可)保育園にあずけて職場復帰する。
《2》ベビーシッターにあずけて職場復帰する。
《3》育休を延長して保活を続ける。
《4》職場復帰をあきらめる。

のいずれかを選ぶことになる。

《1》には、 「すぐに働ける環境を整えるため」という目的もあるが、それ以上に、「その先に認可保育園に入るため」という目的がある。

認可保育園に入るのに有利になる条件のひとつに「すでに認可外保育園にあずけている」というものがあるので、まずは認可外保育園に入れて次の認可保育園の審査タイミングに備えるというわけだ。

しかし、保活激戦区の一部では、認可外保育園でさえ数が足りていないというケースがある。

近くで見つからなければ少し足をのばして広範囲。
それでも見つからなければさらに広範囲。
ひどいときは利用駅から何駅か電車に乗って行くようなエリアで探すことも……。

それでも、どこも見つからないよりはマシである。

認可外保育園が見つからなかったら、《2》のようにベビーシッターサービスを利用するという方法もある。

しかし、ベビーシッターサービスは、保育園にあずける場合に比べて子ども1人あたりにかかる保育者のパワーが大きくなることもあり、総じて利用料が高くつく。

仮に「1日 8時間、週5日、月で20日」の利用だとすると、時給 1500円(安い方!)換算でも、1ヶ月で24万円となり、それ以外に交通費などが加算されると25万円以上にのぼる。

ちなみに東京都の場合、ベビーシッター代を補助する制度を2018年に新設すると発表されているが、そこではベビーシッター代の月平均は32万円と言われている。

この金額は、バリバリのキャリアウーマンでもない限り、あずけて働けば働くほど赤になる価格帯である。

働いても働いても、給与のほとんどがシッター代に消えてしまう。
これでは何のために働いているかわからない。

そんなこんなで選択肢の《3》の「育休を延長して保活を続ける」を選ぶことになった場合は、まず、会社側の理解が求められる。

会社側は「予定していた復帰時期に復帰できないことを許可」し、かつ、「育休中のしかるべき手当てを払い続ける」必要があるのだ。

間違っても「長く休み続けたので復帰後の居場所がなくなる」という事態や、「急な延長につき残りの期間の育休手当てを払えない」という事態を招いてはならない。
なぜならそれは「事実上の解雇」だからだ。

しかし、悲しくもそのような状況になってしまった場合、母親は《4》を選択するしかなくなる。

たとえば仮にユッキー夫妻のように、もともと「夫婦フルタイムで共働き」をする状態でやっとこさ生計が成り立っているようなケースでは、「(《4》を選択する)ほぼイコール(生計が立てられなくなる)」ということになる。

暮らしがままならなくなれば、内職などの在宅でできる仕事を探しつつ、家賃の安いところに引っ越し、日々の出費を抑え、それでもどうにもならなければ国民の最後のライフラインである「生活保護制度」に頼ることになる。

「産後うつ」と「産後クライシス」が社会問題に

ところで、今回のマンガでは、ユッキー夫妻の夫婦仲が急速にギクシャクし出すさまが描かれているが、これは俗に言う「産後クライシス」の前触れなのかもしれない。

「産後クライシス」は「産後うつ」と並んで、近年よく聞くようになった言葉である。
※「産後うつ」についてはこの記事で書いているよ!

「産後うつ」が産褥期に発症するうつ病であるのに対し、「産後クライシス」は、産後2年以内に夫婦間の愛情が著しく冷めてしまう現象と定義されている。

その2つは別物とされているが、そうなった要因(社会的背景、もっと言うと「日本人が犯してきた過ち」)のひとつは同一のところにあるのではないか……と、きのこは思う。

「産後クライシス」のきっかけのひとつに保活が?

「男女共同参画白書」(平成25年度版)によると、日本の1日あたりの夫の家事・育児時間は1時間7分と、3時間以上のスウェーデンやアメリカなどの諸外国に比べ、3分の1程度らしい。
これが日本における「産後クライシス」の大きなきっかけともされている。

また、日本では、出産を終えた女性の多くは、赤ちゃんに母乳をあげるように推奨されている。
母乳をあげると、授乳によって分泌が促される「オキシントン(通称:しあわせホルモン・愛情ホルモン)」の働きで、幸福感を得たり、母性本能が高まったりするが、そのいっぽうで、育児に非協力的な夫のことを「敵」とみなし、攻撃の対象にしてしまうことがある

つまり、もともと「産後うつ」の傾向がある状態に、「子育てや家事に非協力的な夫の存在」と「オキシントンの作用」が掛け合わさることによって夫への強いイライラが募り、その先に「産後クライシス」に発展する恐れがあるということだ。

しかし、いくらオキシントンが分泌されていても、核家族でもなく、育児をサポートする人が周囲にいて、夫が十分に稼いでくれる(景気が良好で共働きの必要がない)状況であれば、そこまで多くの妻が夫に対してイライラしないはず、とも考えられる。

攻撃の対象になるかならないかには、「育児を手伝う夫/手伝わない夫」の違いが関係するという単純なものではなく、夫婦の「外での仕事と、家事・育児の量や効果」に対して、夫と妻がそれぞれ同等程度に貢献しているだろうかというトータルの思惑がかかわってきているのではないだろうか。

もし、単純に「育児を手伝う夫/手伝わない夫」の違いだけが関係するのであれば、育児が大変な時期に、夫が仕事を完全に休んで家事や育児を助けてあげれば解決する、ということになってしまう。

でも、現代の日本では、その方法で家計が成り立つケースは非常に少ない。
それどころか、妻が出産を機に産休・育休を取っている間、収入の減った状態で貯金を切り崩しながら生活を維持していることが予想される。

ゆえに、妻は我が子がどんなにかわいくても、どんなに子育てに専念したくても、いつまでも仕事を休んでいるわけにはいかない。
そう、それこそ「人類がチンパンジーだった頃」のように、5年間もつきっきりで子育てをするわけにはいかないのだ。

周囲に助けてくれる人もいないし、自分も早く働かなくてはいけないし、夫は仕事してても収入は不十分だし、そのくせ、家事や育児をちょっと手伝っただけでイクメン気取り。
あまり言いたくはないが、たぶんこのパターンが「妻のイライラのオンパレードを引き起こすのに最適なシチュエーション」である。

妻のホンネとしては「もちろん最低限は育児も助けてほしいけれど、育児に専念できる環境が用意されていて、親が助けてくれるなら、別にあなたがイクメンでなくてもいい。わたしとわたしの親(など)を育児に専念させて、あなたはその分、十分に稼いできて」だ。

つまり、あくまで極論だが、妻としても「あれもこれもしてほしい。これもそれも夫のせい。社会のせい」と言っているのではなく、「夫婦は対等なんだから、互いにそれぞれの強みを活かして協力し合いましょうよ。わたしはここをやるから、あなたはこれをまっとうして。それができないというのなら、結婚という契約への不履行でしょうから、別れますか?」と言っているのだ。

そこにあるのは、ワガママや甘えではなく、正当な言い分、論拠である。

ちなみに、今の結婚に対する「離婚率」は、60年前(今の祖父母世代が生まれた頃)の離婚率の4倍にものぼる。

60年前はようやく「女性の雇用の需要が拡大」し始めた頃。
女性が仕事と育児を両立しなくてはならない状況もなければ、女性たちにその意思が多くは見られなくても当然だった時代なのだ。

女性の社会進出によって太古から伝わる性別による役割分担が崩れてきていることも背景にあるが、家庭生活のキャスティングが変わったのに夫婦双方あるいはどちらかの気持ちや身体、そして社会の仕組みがついていけていないから、「産後クライシス」が流行ってしまうのである。

都心部に住む共働き夫婦であればなおのこと、保活をひとりでやる分、しっかり発信すること

産後の人生に立ちふさがるいくつもの壁の中のひとつに「産後うつ」や「産後クライシス」があり、都心部を中心として「産後クライシス」のきっかけのひとつに「保活」がある。

《 産後クライシスのメカニズムの一例 》

もともと夫5割:妻5割の収入バランスで働いている(あるいは夫4割:妻6割、その逆など)
  ↓
妊娠・出産(妻は産休中)
  ↓
妻が「産後うつ」状態になる(妻は育休中)
  ↓
オキシントンが作用している
  ↓
妻は保活で大変(仕事に復帰できない不安=家計の不安)
  ↓
夫は保活で大変な事態を飲み込めていない
  ↓
妻は夫に対してイライラが募る
  ↓
妻は夫を敵と見なし、攻撃的になる
  ↓
夫は妻の異変に気付き、イクメンになる努力などをするが、育児にかけるパワーバランスはちっとも半々ではない
  ↓
中途半端に「育児してます・理解ありますアピール」に、妻の苛立ちはヒートアップ
  ↓
夫婦関係がギクシャクし、溝が深まる
  ↓
離婚 or 家庭内別居状態になる

ユッキーのようにつらい状況に陥ってしまった場合、夫婦が互いに早い段階で冷静になって、溝を埋めていければ良いのだが……

精神状態の問題にはホルモンの作用が関係しているし、家計の問題には社会情勢や景気などが深く関わってくるので、当事者同士の努力だけで解決できないのが常である。

しかし、少なくともひとりひとりができることはゼロではないはずだ。

子育てが大変な時期、育児や保活の作業そのものはどうしても女性にかかってくるかもしれない。
でも、 そのストレス・プレッシャーまでもたったひとりで抱えこむのはとても危険。

だから、出産のタイミング以降は、妊娠中よりもっともっと、会話を増やして「今、どういうふうになっているか」「今、どんな気持ちでいるか」「今、何を求めているか」といったこをしっかりと共有すること。

夫がいる場合は夫に。
夫がいなければ近くにいる家族に。
それもなければ保健所などに。
それもうまくいかなければSNSでもいい。

絶対に、ひとりで泣き寝入りしないことである。

冒頭の話題に戻るが、とかく、抱え込まずに発信すること。
そう、「保育園落ちた日本死ね!!!」の人のように、現実を発信することだ。

発信すれば参同者がいっぱいいることが わかるかもしれない。
発信すれば反論する人がいることもわかるかもしれない。

どちらだとしても抱え込んだままでいるより、ずっといい。

発信するということは、自分のためだけではないのだ。
家族のためであり、みんなのためであり、社会を変えるためである。

***

ユッキー夫妻はどうなってしまうのだろうか。
次回はいよいよ認可保育園に……?

文:松本えつを

▼松本えつをの子育てあるある▼

◆ 文・ストーリー構成:松本えつを(役名:きのこ)

絵本作家・エッセイスト・コピーライター。2007年、8年間役員をつとめた出版社から独立。2008年、出産後の出血多量で死にかけるも一命をとりとめたことをきっかけに、女性が働きづらい社会を少しでも変えたいと一念発起。以降、ニッポンの女性アーティスト・クリエイターの自立支援を目的とした教育&プラットフォーム事業を立ち上げ、多くの女性たちの声を聞く。2014年、クリエイターを対象としたマンガコンテンツ “ クリエイターあるある in 日影工房 ” を企画・制作。これまでの著書の大部分は大人の女性を対象としたものとなる。代表作に『バンザイ』(サンクチュアリ出版)、『ユメカナバイブル』(ミライカナイ)等。

クリエイターあるある in 日影工房
ウーマンクリエイターズカレッジ「絵本の学校」

◆ 絵:ささはらけいこ(役名:もじゃ)

1984年北海道生まれ。金沢美術工芸大学油画専攻卒。東京クリエイターアカデミー(現ウーマンクリエイターズカレッジ)を経て、2010年よりイラストレーター・絵本作家として活動を始める。2014年から “ クリエイターあるある in 日影工房 ” の作画を担当し、「もじゃ」役として出演。2015年におまんじゅうのような子どもを出産し、テンヤワンヤで子育て真っ最中。
ささはらけいこポートフォリオサイト「星ふるモジャモジャの丘」

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