すみかる住生活版

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【マンガ】赤ちゃんの寝かしつけがうまくいかなくて疲労困憊している母親と、その周りの人たちへ【松本えつをの子育てあるあるvol.44】

赤ちゃんの睡眠時間って普通はどのくらい?

知りたがる人がたくさんいるという理由からか、赤ちゃんの睡眠時間に関しては、じつにいろんなところで、平均値が発表されている。

ざっと羅列すると……

《 赤ちゃんの睡眠時間 》

□ 新生児〜生後1ヶ月
16〜18時間ぐらい
※ 昼夜の区別:ほとんどついていない。
※ 夜中でも3時間おきに起きるといわれている。

□ 生後2〜3ヶ月
14〜15時間ぐらい
※ 昼夜の区別:ちょっとだけついてくる。
※ 夜は6時間まとまって寝ることもある。

□ 生後4〜6ヶ月
13〜14時間ぐらい
※ 昼と夜の区別:そこそこついてくる。
※ 昼寝を2〜3回し、夜はまとまって寝る子が増える。

□ 生後7〜12ヶ月
11〜13時間ぐらい
※ 昼夜の区別:かなりついてくる。
※7ヶ月頃から夜泣きの症状が出てくることも。

……うむ。

「15時間だと……? 寝ない寝ない、ゼッタイそんなに寝ないわ……」
そう思った人もいるだろう。

おそらく寝かしつけに苦労しているときは「一般的にどれくらい寝るか」ということが気になるだろうし、きのこも昔はよく調べたので一応は載せたものの、これらはやっぱり、あくまで「平均値」であって、それ以上でも以下でもない情報であると思っている(ゆえに、気にしないでほしい)。

平均値ということは、それよりうんと長く眠る子も存在するだろうし、うんと短い睡眠でもだいじょうぶな子も存在する可能性があるといえ、その幅はわからないのだ。

ユッキーが以前、妊娠5ヶ月のときの自分のお腹の大きさに不安を覚えてインターネット検索をしていたのと同じように、ニッポン人女性は特に、「一般的かどうか」「平均と比べてどうか」ということを確認せずにはいられない傾向があるように思う。

そして、確認したらしたで、その結果と自分の場合との「差」を測り、差が大きいと落胆したり不安になったりするものだ。それは、赤ちゃんの成長スピードや飲む量・眠る量などにおいても同じ。

その傾向や習性そのものが悪いというわけではない。でも、余計に不安になったり、落ち込んだりするのは、精神衛生上よくないから、「統計」とか「平均値」とか「一般論」はあくまで「数ある参考のうちのひとつ」程度にとどめておこう。

ユッキーの場合は、どんなに多めに見積もっても赤ちゃんの合計睡眠時間が平均よりも大幅に短く、さらに1日じゅう断続的に睡眠を刻んでいくというパターンだったので、一度はめちゃくちゃ心配になった。それこそ、「寝なすぎて死ぬんじゃないか?」というくらい。

しかし、赤ちゃん自身に眠り足りないことで生じるような不調はいっさい見られず、小刻みだとしても何度も何度も入眠するため、そのうち赤ちゃんの睡眠不足への心配は薄れていったのであった。

赤ちゃんが寝ついてくれない・すぐ目を覚ます理由は?

そもそも赤ちゃんがなかなか寝ついてくれなかったり、目を覚ましやすかったりする理由はなんだろう。

そこは、大人との違いで考えるとわかりやすい。

眠りには浅い眠りと深い眠りがあり、睡眠は、それらが交互にやってきて構成されている。誰しも人生のどこかで「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」って言葉を聞いたことがあるよね?

レム睡眠」とは、「肉体(身体)」を休めるための眠りで、眠りの深さでいうと、「浅い」。夢を見るのもレム睡眠のとき。

ノンレム睡眠」とは、「脳」を休めるための眠りで、夢も見ないくらい、深い眠りのことだ。

たとえば、大人(30歳)の場合、このレム睡眠とノンレム睡眠が1往復する周期が平均で90分ほど。「90分の倍数のタイミングで起きると目覚めがすっきりよ!」とか「予定通りの時間に起きやすいよ!」とかいわれるのはこのためだ。

じゃあ、対して赤ちゃんはどうだろう。

赤ちゃんの場合、新生児でなんと40分くらいの周期、生後3ヶ月以上になっても50分くらいの周期と、大人に比べるとかなり短い。大人を100%としたら赤ちゃんはおよそ50%という短さだ。これもあくまで「平均値」だけどね。

また、新生児から1歳半くらいまでの間は、睡眠のうちの50%以上がレム睡眠だという。つまり、眠っているうちの半分以上が浅い眠りで構成されているということになる。

睡眠の周期が、大人100に対して赤ちゃん50なのだから、単純計算しても、赤ちゃんは大人の2倍の頻度で浅い眠りのタイミングがくるということになるよね。一度寝てもちょっとした音や振動で目を覚ましやすいわけだ。

しかもそれだけではなく、赤ちゃんは赤ちゃんゆえに、うまく眠る方法がよくわかっていない。まったく眠れないわけではないが、いわゆる「眠り方がヘタ」なので、レム睡眠のタイミングでうっかり目覚めてしまおうものなら、そのあと再びレム睡眠に入り、さらにノンレム睡眠に入っていくという、大人なら誰もが何も考えずにやっていることができなくて泣いたりするわけ。

くぅ〜。「眠り方がヘタ」とかって、実際は困るけれど、くっそかわいいではないか……。

かつて、産婦人科医に興味深い話を聞いたことがある。「赤ちゃんの眠りが浅いのは、生きるための防衛本能なんだよ」と。

赤ちゃんが何かを知らせるためにできることは唯一「泣くこと」である。泣くことは起きている(眠っていない)状態でなければできない。

なので、「生きていくために必要な食べ物がちゃんと得られているか」「暑すぎたり、寒すぎたりして、体温がおかしなことになっていないか」「ちゃんと息ができているか」などを本能(快・不快)で確認し、異常があればすぐさま泣いて知らせるために、長時間深い眠りにつかないようにしているんだって。

「眠り方がヘタ」なんて、くっそかわいいと書いた矢先に真逆のことをいうが、赤ちゃんって何気に超ハイスペック! 賢い。

赤ちゃんがなかなか寝ついてくれないときは?

赤ちゃんの眠りに関するよもやま話はほかにもいろいろあるが、目下、赤ちゃんの寝かしつけに悩んでいるママは、そんなことより「けっきょくどうすりゃ寝てくれるのか」ってことを早く知りたいよね。「なんか、こう、絶対的なキラーパスみたいのないの!?」って。

そして、そのママたちのうちの多くは、きっと、もうすでに寝かしつけについてのおおよその知識はインストール済みだよね。最近では、寝かしつけの本もいっぱい出てるし、インターネット上にも数々の寝かしつけ法や寝かしつけの工夫ポイントが載っているもの。

たぶん、もっとも多くいわれているのは、「親が規則正しい生活をして、夜更かしせずに定時にお布団に(赤ちゃんと一緒に)入ること」だったり、「昼寝を15時までに済ませて、日中の活動量を上げること」だったり、「おやすみの儀式をつくって、寝る時間だよということをわからせる」だったり、「赤ちゃんがお腹の中にいたときに聞いていた音を流す」だったり、「秒針と同じ速さのリズムの音楽を流す」……といったあたりかなと思うけれど、おそらくだいたい試し済みなんだよね。で、それでも、スムーズに寝てくれないから困ってるんだよね!(ちがったらごめんね!)

ここまで引っ張っておいて恐縮極まりなくて書きづらいんだけども、「これをやれば赤ちゃんがスムーズに眠ってくれる or 起きずに長時間眠ってくれる」というのはないと思おう、というのが、きのこの結論である(ひゃー、ごめんなさい!)。

たしかに、いろいろな工夫をしないよりはしたほうがよく眠ってくれると思うけれど、どんな工夫も100%完璧ではないわけで、血眼になって苦労して工夫をこらせばこらすほど、失敗したときの悔しさやショックは大きいわけで……。

批判されるかもしれないけれど、きっとね、ある意味「開き直る」というのがトータルで考えるといちばんいいのではないか、と。

よく寝るのも個性、あまり寝ないのも個性。その個性がわかったら、全力で受け入れて、もう悪あがきをするのをやめる。すると、その瞬間から、いったん「ヤケっぱち」になり、それを越えると、その個性に自分自身や自分の周囲の大人たちがイヤでも順応していくんではないかと。

そう。もう書いてしまったので、繰り返す。

「結論! この子は寝ない子! ひとりでみるには限界があると認め、周囲の人の協力をあおごう!」だ。

受け入れつつ、周囲の大人(特にパートナー、シングルだったら親族、親族もムリなら市町村や民間が提供するサポート)に説明しつつ、SOS。ここで無視されてもくじけちゃダメ。根気よくヘルプ要請。そして、共同責任のもと、シフトを組んで、赤ちゃんをみる。

ユッキーみたいにパートナーがイマイチ頼りないとしても、やってみなければ始まらない。ちょっとずつでいいから、教育して、慣れさせていく。そして、どうにか負荷を分散させるのだ。

慣れるまではヒヤヒヤドキドキでも、そこは勇気を出して。これから始まる長い育児期間の最初の砦。ここで背負ってしまうと、この先もずっとひとりで背負うことが当たり前になってしまうぞ。

ただし、最悪、自分も周囲の大人も同時に限界突破して赤ちゃんをよそに寝てしまったときのために、絶対に守っておくことがある。

それは、「目を離している(大人が眠ってしまっている)うちに赤ちゃんが危険な状態にならないように安全な状態で寝かせること」だ。

□ 赤ちゃんの呼吸を妨げてしまうような物が周辺に置かれていないか
□ 赤ちゃんの身体が圧迫されるような物が周辺に置かれていないか
□ 赤ちゃんが(床などに)落下する恐れがないか
□ 赤ちゃんに物が落下する恐れがないか
□ ベッドとベッドの棚の接合部分に赤ちゃんが挟まれる恐れがないか

これらを絶対的に守っていれば、赤ちゃんがひとり起きてしまっている状況があったとしても、最悪な事態は免れるだろう。しかも、そもそも複数人体制ならば、共倒れする確率はひとりのときに比べてはるかに低い。

***

マンガの中の健診のシーンで「赤ちゃんは、眠くなったら眠りますから、ま、だいじょうぶでしょ」というセリフがあるが、それは言い換えると「睡眠不足が直接の原因で赤ちゃんが死ぬ確率は限りなくゼロに近いでしょう」ということ。

そう、赤ちゃんの睡眠不足そのものは、そこまで心配いらないのだ。

でも、大人は違う。

特に産後の女性は睡眠不足というストレスがのしかかることで、身体のあちこちに不調が現れることがある。

ストレスが重なって母乳が出なくなることもあれば、免疫力の低下から風邪にかかりやすくなることもあるし、ホルモンバランスが崩れて子宮復古がうまくいかなくなることもある。最悪の場合、命を落とすことも

そうなると、めぐりめぐって赤ちゃんは母親を失ってしまうことになる。それこそ生きていけないかもしれない大ピンチである。

ママたち、そしてその周囲の人たち。赤ちゃんのことがかわいくて、健やかに育ってほしいと思うなら思うほど、赤ちゃんのいちばん近くにいるママを、大切にしてあげてほしい。

文:松本えつを

▼松本えつをの子育てあるある▼

◆ 文・ストーリー構成:松本えつを(役名:きのこ)

絵本作家・エッセイスト・コピーライター。2007年、8年間役員をつとめた出版社から独立。2008年、出産後の出血多量で死にかけるも一命をとりとめたことをきっかけに、女性が働きづらい社会を少しでも変えたいと一念発起。以降、ニッポンの女性アーティスト・クリエイターの自立支援を目的とした教育&プラットフォーム事業を立ち上げ、多くの女性たちの声を聞く。2014年、クリエイターを対象としたマンガコンテンツ “ クリエイターあるある in 日影工房 ” を企画・制作。これまでの著書の大部分は大人の女性を対象としたものとなる。代表作に『バンザイ』(サンクチュアリ出版)、『ユメカナバイブル』(ミライカナイ)等。

クリエイターあるある in 日影工房
ウーマンクリエイターズカレッジ「絵本の学校」

◆ 絵:ささはらけいこ(役名:もじゃ)

1984年北海道生まれ。金沢美術工芸大学油画専攻卒。東京クリエイターアカデミー(現ウーマンクリエイターズカレッジ)を経て、2010年よりイラストレーター・絵本作家として活動を始める。2014年から “ クリエイターあるある in 日影工房 ” の作画を担当し、「もじゃ」役として出演。2015年におまんじゅうのような子どもを出産し、テンヤワンヤで子育て真っ最中。
ささはらけいこポートフォリオサイト「星ふるモジャモジャの丘」

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