すみかる住生活版

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【マンガ】マタニティマークに意味はあるのか? つけていると逆に危険って本当?【松本えつをの子育てあるあるvol.13】

そんなことが起こってしまう背景には「妊娠ではないのに席に座りたいがためにマタニティマークを悪用している人」や「高圧的な態度をとる妊婦」の存在がある、とも言われているが、実際のところ、それらはごく少数だろう。

それよりも、妊娠したくてもできない場合のつらい感情の存在、流産・死産などに関する心の傷の存在、とりわけマタニティマークの意味や目的を理解していない人の存在のほうが、妊婦とそうでない人たちが共存しづらい現実の背景にあるのではないかと思う。

きのこは20代の初めの頃に、脳下垂体機能不全と診断され、医師に「子宮も “ うずらの卵 ” 大まで萎縮しているし、妊娠・出産は、まず無理だね」と言い放たれたことがある。
それ以降の数年間、自分の中で静かに「妊娠・出産ができない」という現実を受け入れる闘いをしていた。
その間ももちろん、妊婦さんに出会ったり、小さなお子さま連れのファミリーに出会ったりしたが、憧れの感情は湧けど、攻撃をしたいと思うことはなかったし、嫌な思いをさせたいと思うこともなかった。

では、なぜ、今、妊婦がマタニティマークをつけていることで、不快な思いや身の危険を感じる事態が生じているのだろうか。

……妊娠中のしあわせをアピールしているように見えるから?
……マークをつけることで「優遇」や「親切」を強要しているように見えるから?

もし、そうであれば、冒頭に書いたように、どちらも誤解であり、事態は「無知」から来ていると言える。

しかし、原因の根はきっと、とても深く、本当の解は、そう簡単には出なそうだ。

ただ、妊娠したくてもできない場合のつらい感情、流産・死産などに関する心の傷、マタニティマークの意味や目的を理解していない人……といった存在に対してケアする取り組みが社会全体で体系的に進んでいけば、状況が改善されるのは間違いないだろう。

そうなれば、マタニティマークをつける妊婦も、現在の6割弱からもっと増えていくに違いない。

マタニティマークに効果ありと感じた妊婦はどのくらい?

ところで、マタニティマークを実際に使ってみて「効果があった」と感じた妊婦はどのくらいいるのだろうか。

2016年に実施された同調査では、およそ7割の妊産婦が「マタニティマークを身につけていることで、周囲のやさしさやサポートを感じたことがある」と回答している。
※ 別のある調査では、7割程度の妊産婦が「公共期間で席を譲ってもらったことがない」と回答したという結果が出ているが、それは2014年に実施されたものである。

きのこも1〜2度、席を譲っていただいたことがあるが、そのときはすでに妊娠8ヶ月で、かなりお腹が目立っていた時期。マタニティマークはつけていなかった。

周囲に話を聞くと、「満員電車で降りるとき、“ 妊婦さんが降りまーす。通り道、空けてください〜! ” と周囲に声をかけてくれた女性がいた」、「美容院で、空調の温度が適切かどうかを積極的に聞いてくれた」、「バスで居合わせた若いご夫婦に席を譲られ、お大事になさってくださいと声をかけられた」、「立食パーティーで優先的に席を用意していただいた」などの声があった。

衝撃を与える悪い情報というのは、それだけがひとり歩きをして目立ちやすい傾向がある。
それゆえに、前項で触れた「マタニティマークを身につけていることで、不快な思いや身の危険を感じたという話」は、“ いい話 ” に比べて拡散されやすいわけだが、実際のところ、不快な思いや身の危険を感じたという人の割合は、わずか1割に満たない程度

いっぽうで、「マタニティマークをつけていることで、周囲のやさしさやサポートを感じた」という割合は7割程度なのだから、これは、意外とポジティブな結果と捉えられるのではないだろうか。

たしかに、「マタニティマークをつけること」は現時点で一定の危険性をはらんでいるといえるのかもしれないが、たった1割程度のリスクのために、多くの妊婦がマタニティマークをつけることを躊躇し、萎縮していくというのは、本末転倒な事態である。

そんな現実を知れば、マタニティマークの企画・発行に取り組んできた人も残念に感じるだろうし、何よりも、妊娠・育児のイメージがダウンすることでますます妊産婦の生きやすさは低下していくだろう。
挙げ句の果てに、少子高齢化がさらに進行し、今の中年層が高齢化したときに、そのとばっちりが返ってくることになるのだ……。

ここはひとつ、これから妊産婦になる人たちが「自分とお腹の子」と、「ニッポンの未来」のためを思って、多少のリスクを覚悟のうえ、ちゃんとマタニティマークをつけ、その意味を理解してもらうための草の根運動に代えていくようにしたほうがいいかもしれないな、と思う。

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