切迫流産とは? 流産とは違うの?
ところで、「切迫流産」って何だろう。
以前、この連載で「化学流産」にまつわる記事をお送りしたことがある。
*【マンガ】化学流産とは? それだけで奇跡なのに、自分を責める必要はあるの?【松本えつをの子育てあるあるvol.7】
上記の記事にて、医学的には流産として扱わないのが化学流産だとお伝えしたが、切迫流産も、じつは流産ではなく、「流産してしまいそうな状態」を指す。
頭に「切迫」がついているので、そのあとにくる言葉を修飾し、「◯◯しそうな状態」を意味しているわけだ。
※ 似たようなスタイルの言葉で有名なものとして「切迫早産」があげられる。
つまり、以下に定義されるように「切迫流産」と「流産」とは明確に違う。
- 「切迫流産」= 妊娠22週未満で流産しかけている状態を指す。
- 「流産」= 妊娠22週未満で妊娠が継続できなくなることを指す。
切迫流産が流産ではないとしても、差し迫っている状態なわけだから、切迫流産という言葉からは、緊迫度が伝わってしかるべきである。
流産になる確率は? そのうち、妊娠を継続できる確率はどのくらい?
全妊娠を100%とした場合、切迫流産になるのは15%と言われている。
そして、そのうち、妊娠を継続できるのが50%、流産になってしまうのが残りの50%。
切迫流産と診断された先の明暗は半々なのである。
この状況において「仕事との両立が……」なんて言っている場合じゃないはずなのだが、ユッキーにとっては、これが初めての妊娠。
細かい知識までは持ち合わせていなかったのかもしれない……。
切迫流産と診断されたらどうすればいい? 入院は絶対必要?
化学流産の場合と異なり、妊娠12週から22週にかけての切迫流産の背景には、胎児側ではなく子宮などの母体側に原因があることが疑われる。
たとえば、子宮頸管無力症により、胎児を支えることができない状況になっているケース、子宮に良性の腫瘍ができているケース、または感染によって胎児の周辺に炎症が起きているケース……などなど。
一見、「母体側の責任?」とネガティブに捉えられなくもないが、裏を返せば、「防ぎようのない化学流産と違って、切迫流産は、何らかの対策を施すことで少なくとも悪化を妨げる可能性を持っている」とも捉えられる。
切迫流産と診断されたら、原因の種類や程度により「入院が必要なケース」と「自宅で様子を見るケース」にわかれるが、どちらにも共通して言われることは、「とにかく安静すること!」である。
流産しそうな状況で振動を与えるのはとても危険。
振動の刺激により子宮が収縮して、胎児が外に出てしまうリスクが高まるからだ。
そうならないためにも、最大限の工夫と努力を駆使して、安静にしよう。
このときに、テキトーな安静ではダメ。
激しい運動はもちろん、ちょっとした外出で歩くのも避け、家事もせず、トイレに行く以外はずっと横になっているという、徹底した「絶対安静」である。
また、病院から安静を指示されるのとあわせて、子宮収縮を抑制する薬が投与されることが多い。
安静にするだけでなく、薬を用いることによっても収縮を抑えるという目的のもと行われる。
ほかにも、子宮頸管の力が足りず、胎児を子宮の中に止めておくことが難しいと判断された場合は、子宮頸管を縛る手術が行われることもあるが、それが実施されるのは安定期に入ってからのことが多い。
仕事における責任は大事。でも、母親としての責任は?
担当の医師に諭されて、自分の考えに偏りがあることに気づき始めたユッキー。
医師の言う通り、「今お腹の中にいる子の母親は、どんなに泣いてわめいても自分にしかできない」と理解したのだ。
会社のために、プロジェクトの業務のために、期待してくれている上司や仲間のために、自らを犠牲にしてでも成果をあげる! という姿勢は、それ単体で見たら素晴らしいし、そんな人はまさに仕事人の鏡であるとも言える。
だけど、お腹に新しい命を宿り、その命が危険に直面している状態で、それでも普段通りの仕事と妊娠を両立させようなんて考えは、そもそも甘すぎるのである。
そのふたつの両立は、そんなに簡単なものではない。
初産婦の場合や、経産婦でも1度目の妊娠・出産がすべてスムーズにいった場合は、身をもってその難しさを実感することはできないかもしれないが、そんなときのためにも医師や看護師がいる。
たくさんの妊娠・出産を見てきた彼らの言うことを素直に受け止めるに越したことはないのだ。
どんなに仕事の現場で自分の存在意義を見出していたとしても、その存在意義の重さなんて、お腹の赤ちゃんにとっての母親の存在意義の重さに勝てるわけがない、ないんですよっ!
赤ちゃんにとっては、今、あなたの存在がすべてなんですよっ!
ユッキーが、一時の判断ミスで、一生、重い十字架を背負うことになる前に、医師の言葉に出会えて、本当に良かった……と、きのこは思ったのでした。
***
入院後のユッキーがどうなったかは、次回以降のどこかでまた。
文:松本えつを
▼松本えつをの子育てあるある▼
- 妊婦受け入れ拒否について想ふ。見出すべき「解」とはいったい何?
- 男性だって知っておくべき! 妊婦健診と保険のリアル
- 何歳まで妊娠できるの? 高齢出産について考える
- 妊娠超初期症状とは? つわりはどのくらいの確率であるの?
- 「でき婚かな?」と思ったら……聞く前に知っておこう! 妊娠週数の数え方
- もっと見る…
◆ 文・ストーリー構成:松本えつを(役名:きのこ)
絵本作家・エッセイスト・コピーライター。2007年、8年間役員をつとめた出版社から独立。2008年、出産後の出血多量で死にかけるも一命をとりとめたことをきっかけに、女性が働きづらい社会を少しでも変えたいと一念発起。以降、ニッポンの女性アーティスト・クリエイターの自立支援を目的とした教育&プラットフォーム事業を立ち上げ、多くの女性たちの声を聞く。2014年、クリエイターを対象としたマンガコンテンツ “ クリエイターあるある in 日影工房 ” を企画・制作。これまでの著書の大部分は大人の女性を対象としたものとなる。代表作に『バンザイ』(サンクチュアリ出版)、『ユメカナバイブル』(ミライカナイブックス)等。
◆ 絵:ささはらけいこ(役名:もじゃ)
1984年北海道生まれ。金沢美術工芸大学油画専攻卒。東京クリエイターアカデミー(現ウーマンクリエイターズカレッジ)を経て、2010年よりイラストレーター・絵本作家として活動を始める。2014年から “ クリエイターあるある in 日影工房 ” の作画を担当し、「もじゃ」役として出演。2015年におまんじゅうのような子どもを出産し、テンヤワンヤで子育て真っ最中。
* ささはらけいこポートフォリオサイト「星ふるモジャモジャの丘」